AIIBの参加遅れは財界人のせいか

 

 

                                                            宋 文洲

日本のAIIB(アジアインフラ投資銀行)参加について、駐中国大使木寺昌人

さんが、30日に「日本は6月にも参加するとみている。」(日本語訳)と英国の

フィナンシャルタイムズに話しました。最終日の31日、菅官房長官が

「特定の期限にとらわれることはない。日本が今日の時点で参加することは

あり得ない。」と記者会見で語りました。

 

菅官房長官と木寺大使は同じことを言っています。つまり、現時点で参加した

くても一旦形成させた国内世論を作り直し、事務手続きをとるのに時間が足り

ないので期限の31日までに参加することは不可能です。

 

AIIB参加のような重大国策について、大使は本国政府の指示や許可なしでは

勝手に話すことはありえません。フィナンシャルタイムズとの単独インタビュー

は「最終原稿をチェックする」という約束ができない限り実現できません。

また、大使インタビューの殆どは国策を広める手段として大使館から持ちかけた

ものです。

 

今回の駐中国大使によるAIIB参加発言は当然政府の指示や許可の下で行われ

ましたが、私はむしろ駐中国大使の次の言葉が気になります。「財界は目覚め

るのがやや遅かった。ただ、財界人らはすでにAIIBへの参加を訴え始めており、

その訴えは有効なものとなるだろう。」

 

AIIB加入遅れは民間の目覚めが遅れたためであって、これから民間人が有効に

訴えれば政府も参加に同意するだろうと仰っているのです!

 

ご存じのように、中国政府は最初から日本政府にAIIB設立参加を要請したのです。

「中国を包囲するダイヤモンド構想」を公言して憚らない安倍総理にしてみれば

「俺の包囲網から逃げたいのか」とも思ったでしょうが、最初から「不透明」

「リスキー」「ADB(アジア開発銀行)がある」と相手にしませんでした。中国

政府からどんな話と条件を受け取ったかは民間どころか、国会議員にも「不透明」

でしょう。

 

31日まで創設メンバーになった51カ国は決して急に参加を決めた訳ではありません。

数カ月もかけて政治家、官僚および民間人が国益とリスクなどを充分に議論した

結果です。最近明らかになったのですが、多くの国、特に米国の同盟国はかなり

早い段階から参加を決めていたのですが、表明の時期を待っていただけでした。

米国の最重要同盟国のイギリスの表明を見て一気に動き出したのです。

「目覚めるのが遅かった」のは財界人ではなく、「中国包囲網」に夢中だった

政治家達です。

 

米国の金融支配に関しては日本も多くの不満があります。是正のために日本を

含む全参加国が合意したIMF改革案が、米国議会によって4年間も否決され続け

ました。中国はAIIBを呼び掛けたのはやむを得ないからです。ほかの先進国も

途上国も米国の横行を痛感しているからこそ、中国の提案にこぞって賛成した

のです。

 

今回の宋メールはもはやAIIBの是非について議論する必要はありません。

下の参加国の地図を見れば分かるように、アジアの未加入国は日本と北朝鮮だけ

です。もともと単なる金融と経済の提案ですが、ここまで来ると「日本が経済を

政治化している」と世界に見られても当然でしょう。

 

<AIIB参加国>

http://r31.smp.ne.jp/u/No/823563/gAXI2kGKgyjD_181060/823563_150403001.html

 

アジアの発展のためにも、世界金融の改革のためにも、そして中国の一方的な

都合を阻止するためにも、日本政府がGDPに比例するシェアを主張し、積極的に

AIIBに参加すべきでした。

 

「中国包囲」が盛んだった2013年のオリンピック招致競争の際、中国はすべて

の票を日本に投じました。理由は「時差が少なくて中国に有利だから」です。

「中国包囲」の敵愾心を持っている方々は、最初からAIIB参加のメリットが

見えないと思います。

 

(終わり)