日本が侵略戦争したのではない

 

 

                                                            宋 文洲

中国人に「日本は中国を侵略した」と面と向かって言われると私にも辛い

ものがあります。なぜならば戦前でも戦争したい日本人は滅多にいないことを

知っているからです。妻の両親の二人の祖父は赤紙で呼ばれて戦争に行きました。

どこでどう死んだかは未だに不詳です。徴兵に応じないと憲兵が来るし、

当時の日本社会では生きていけないのです。

 

しかし、海外の人に「日本が侵略」と言われると、多くの日本人は辛いでしょう。

戦争や侵略が嫌いな自分が「侵略した」と言われた気分になるからです。

 

では外国人、特に中国人が「日本が侵略戦争をした」と言う時は、

どういう中身を意味するでしょうか。

 

中国人は小さい時から日中戦争は日本軍国主義によって起こされた侵略戦争で

中国に甚大な被害をもたらしただけではなく、日本国民も被害者だと教えられて

きました。これは日本への報復禁止を呼び掛ける当時の蒋介石政府の声明にも、

毛沢東政府の日中国交回復の声明にも、はっきりと書いてあります。つまり、

「日本の侵略」は「日本軍国主義の侵略」を意味するのです。

 

軍国主義による被害の数字に見解の相違があれば、日本政府は客観的に中国政府

に指摘すればよいのですが、日本政治家が「虐殺がなかった」と言い出すと、

「歴史否定」と思われてもおかしくないはずです。特に国会の場で「侵略戦争

に定義がない」とか村山談話を見直すとか宣言する国の代表がいれば、外交の

場で「講和の契約をちゃんと守ってくださいよ」と言われるのは当然です。

 

このことを極右の方々が中国の「反日教育」と言うのは見当違いです。中国には

日本軍国主義に反対する教育があります。旧日本軍を悪く描く映画やドラマも

あります。しかし、戦後の日本や日本国民のことを悪く描く教科書や映画や

番組などを私は見たことがありません。日本のマスコミのほうが中国のマイナス

情報に熱心です。

 

私の中国側の親戚や友人は、私の日本人親戚や友人に向かって「日本は中国を

侵略した」と言いませんし、思い付かないのです。相手のことを信頼している上、

国民が同じ戦争被害者である自覚を持っているからです。しかし、未だに戦争を

起こしたい人が日本に居ることも事実です。

 

先日、フジテレビの「みんなのニュース」に出て「日本はまた戦争するか」と

いう討論に参加しました。100歳のむのさんの「当時殆どの国民は戦争を心配し、

行きたくなかった。今のように思ったことが言えないからどんどん戦争にはまっ

ていった」との回想に触発されて、私は以下の発言をしました。

 

「日本がまた戦争するかとの問い方に違和感を覚える。戦争したい国などない。

しかし、戦争したい人は未だにいる。石原先生はカメラの前で『今の野望は

シナと戦争して勝つことだ』と言いました。」

 

その場に居た石原慎太郎さんはさすが自分の前言を否定できず、苦笑いしながら

「私は何も中国と事を構えるつもりはしかし、尖閣はどう思うか」と話を

逸らそうとしました。

 

私は「戦争を起こす人は戦争に行かない。自分の子供も行かない。石原先生は

この御年だから戦争に行く訳がない。戦争を起こしておしまい。」と言った時、

むのさんが石原さんに向かって大声で言いました。

 

「そうだそうだ。石原、戦争に行って来い、行って来い。」

 

そうなんです。戦争をしたいのは国家ではなく人間です。戦争を避ける一番の

方法は戦争したい人同士が戦争に行けばよいのです。戦争したくない人を

巻き込まないでほしいのです。そして戦争したくない人の名誉も汚さないで

ほしいのです。

 

 

(終わり)