「私を選ばないあなたは常識がない」

 

 

                                                            宋 文洲

先日、香港のフェニクスTV(Phoenix Satellite Television)に出演しました。
テーマは日中関係であるため、プロデューサーに日本人ゲストを誘ってほしいと
頼まれていたのですが、言葉や時間の問題で失敗しました。
すると「宋さんが可能な限り日本の立場を代弁してもらえないか。」と
プロデューサーに頼まれました。結局、私が軍や共産党の論客と論争する設定に
なりました。日本のテレビでも、中国のテレビでもタカ派と論争するとは
皮肉な話ですが。

たとえば安保法の議論になると、本音で言えば私も反対です。
議論の方法が強引な上、憲法違反も明らかだからです。しかし、私は安保法に
「理解」を示さないとならないので以下のように言いました。

「日本の立場に立って考えれば、台頭してきた中国に対して警戒するのは当然だ。
新安保法の内容はともかくとして、日本は自国の安全政策を決める自由がある。
中国は日本の内政についてコメントをすべきではない。」

「中国には中国の立場がある。日本も理解してくれないと。」当然ながら
反論を受けましたが、結果的に「日中関係はとても大切なので双方の違いを
棚上げして、経済中心に徐々に関係を改善していくべきだ。」との纏めで
番組を終えました。観客席からの日本人留学生やメキシコ留学生の発言も
大変よかったです。

ところが、番組出演を終えて日本のニュースをチェックするとびっくりしました。
インドネシアが日本の新幹線を採用しなかったことについて、日本の官房長官が
「理解しがたく、極めて遺憾である」とか「まったく常識では考えられない」と
批判したのです。受注に失敗した側が顧客の判断を「理解できない」
「極めて遺憾」「常識がない」と批判するとはどういうことでしょうか。

政治問題ならわかりますが、発注側の顧客に向かってこれらの言葉を吐くとは
まさに「常識がない」行為であり、顧客のニーズや気持ちを「理解できていない」
証拠です。受注に失敗して当然でしょう。

良い物が売れるのではなく、売れる物が良いもの。これは宋メールが繰り返して
きた己惚れ経営への警戒の言葉です。売れないのに物がいいと自慢する経営者には
必ず共通点があります。それは、

(1)顧客のことを「神様」と祭り上げながら上から目線で自社の技術力や
品質ばかり強調して顧客に押し込む

(2)競合製品との勝負には熱心なくせに、製品を離れて顧客の悩みを深く
掘り下げる努力をしない

などの顧客中心ではなく、自己中心の姿勢です。

私は日中間の高速鉄道の技術や品質の差を知りませんが、乗った感覚としては
中国の高速鉄道は新幹線よりもっと揺れが少なく静かです。初期に事故も有った
のですが、むしろそれがきっかけで管理が厳しくなり安全性が格段に上がり
ました。高温酷寒など様々な環境の下で、日本の約10倍の高速鉄道網をよくも
こんな短期間にスムーズに製造し管理できるようになったものです。

9月17日、ロサンゼルス-ラスベガス間の高速鉄道を2011年に建設許可を得た
Xpress West社が中国の高速鉄道を採用すると発表したため、一旦迷走した
インドネシアの高速鉄道は急速に中国方式に決まりました。

それでも日中間の技術差があったとしても、顧客のインドネシアはあくまでも
それを承知の上、自分の都合で総合的に判断したはずです。「理解できない」
「常識では考えられない」とは「私を選ばないあなたは常識がない」と
言っているのです。

五輪エンブレムのように、公募前に密かに特定な人に要請するアンフェアな体制、
五輪スタジアムのように、国際価格の数倍もする公的資金への甘い体質
他人批判よりも、競争力を高める構造改革こそ、競合に勝てる最善の方法でしょう。

 

 

 

(終わり)