英国民の「私」がEU離脱を選ぶ

 

 

                                                            宋 文洲

中国も日本同様、英国のEU残留を強く希望しているようです。英国の企業と
不動産を大量に買収し、欧州への拠点にしようとしている中国企業が多い上、
習近平政権もEUへの影響力を期待して英国との関係を強化してきたからです。

 

しかし、EUに残留するかしないかは英国民の立場に立って考えなければ問題の
本質が見えて来ないのです。他国の態度はあくまでも他国の都合によるものです。

 

私がもし英国民であれば、つまり英国民の「私」がどう思うかと言うと、
たぶん迷いながらもEU離脱を選ぶでしょう。

 

「私」は難民を受け入れたくないのではありません。低所得層の人々は仕事や
福祉が奪われるなどの心配でそのような心情になるでしょうが、経営者や
ビジネスマンにとって難民はチャレンジ精神が旺盛な安い労働力であり、
異なる発想ももたらしてくれます。

 

「私」がEU離脱を支持する最大の理由は英国の未来を心配しているからです。

 

日本には「寄らば大樹の陰」という諺がありますが、それは大樹より小さい人々
の話です。その大樹と同じくらいの巨人は大樹の陰に寄っても安全でもなければ
快適でもありません。大樹の枝にぶつかったりしてお互いに迷惑です。

 

さらに大樹の陰にも限界があります。あまりにもたくさんの人々が集まると
その陰の意味が無くなります。混雑で身動きが取れなくなり、密度で風通しが
悪くなり、体温で温度が上がり、騒音で不安になります。そのうち心理的に
弱い人々ばかりが集まり、最初に陰を見付けた人は逃げ出したくなります。

 

EUに入っても英国は自己通貨を持ち続けました。ユーロとポンドとの関係は
まさに嫁と姑の関係でお互いに居心地が悪いのです。より長い時間にわたって
より広い範囲において、英国がその潜在力を発揮させるにはEUに拘束されるよりも、
自由度をもって世界中で活躍したほうがいいのです。

 

ソ連崩壊後、東欧諸国が挙ってEU加盟を目指し、今やトルコまで加盟を検討
しているところです。EUの理念である政治平等と経済統合は小国や後進国に
とっては都合が良いのですが、大国や古い先進国にとって主権の喪失と時間の
無駄に過ぎないのです。同じ思いは英国民同様、フランス国民がより噛みしめて
います。Pew Research Centerの調査ではEU残留反対のフランス国民の割合は
英国民よりも高いのです。

 

EU残留支持派が主張している欧州統一市場へのアクセスの便利さはメリットに
見えますが、それは兄弟の多さに期待するようなものです。自分より貧乏な
兄弟がますます多くなる今、共同生活を止めたくなるのは自然です。また、
残留派はしきりに離脱後の不確定性を強調しますが、これは離婚後の不確定
要素を恐れて幸せを掴む勇気を無くした心理です。

 

人類の歴史を見れば分かるように、永遠の同盟や連合は存在しません。それは
永遠の学級とクラスがないと同じ理屈です。世界視野と長期戦略を持つ国が、
効率の悪い同窓会に拘束される訳にも行きません。今回、かろうじて英国残留が
決まってもこの問題の本質は変わりません。

 

(金曜日に皆さんがこの文章を目にした時、英国の国民投票の結果が既に
出ているはずです。しかし、この文章は私が月曜日に事務局に送ったものです。
書いたのは6月18日です。)



(終わり)