上海感想

 

 

                                                            宋 文洲

今週ローソンの記念行事で上海に行き会場である知人に会いました。彼は東大を
卒業してから旧財務省に入り米国留学した後マッキンゼーに入りました。
まさに絵に描いたようなエリートですが、その彼は数年前に上海で起業しました。

 

「宋さん、いつもメルマガを読んでるよ」と、彼が声をかけてくれ「いえいえ
あんな独断なメルマガで申し訳ないよ」と私が答えました。

 

すると、彼が「実は僕も中国で見たことと感じたことをツイッターに投稿すると
『あなたは中国に洗脳されている』とよく言われます。事実を言っているだけなのに」
と言いました。

 

日中関係が悪いのは事実です。統計からも分かるように日本の反中感情は
中国の反日感情よりもはるかに高いです。そのおかげで日本のメディアの
中国関連の情報はマイナスなものばかりで、反中感情のない方々も嫌中に
なってしまうのです。

 

中国人の日本への感情も複雑ですが、歴史問題ではない限り反日とは言えない
のです。たくさんの観光客が日本を訪れ、ほぼ100%日本を褒める感想をWeChat
などに投稿するように、現実の日本社会への好意が目立ちます。政府系の
メディアを含め、政治以外の話題で日本を貶す内容はなかなか見つかりません。

 

「一億総嫌中」が進む中、中国を観光する日本人はなかなか居ないだろうと
思っていましたが、上海空港で最もよく耳にする外国語の一つは日本語でした。
調べてみると上海駐在の日本人は10万人以上で、世界のどこの街よりも多い
ことが分かりました。

 

「日中関係は実は悪くないのでは」と思うかもしれませんが、上海に来る
日本人と日本にくる中国人とはかなり意味が違うようです。日本に来る中国人
が日本文化と日本社会そのものに興味を持つことに対して、上海に来る日本人
は殆どビジネス関連です。

 

人件費高騰で製造系の日本企業が東南アジアに移る一方で消費系の日本企業は
中国展開を拡大しているのです。ローソンの店舗数の伸びや収益構造の改善を
みてきましたが、まさに日本メディアの「中国経済崩壊論」が盛んなここ2年で
確実に実りました。ニトリさんもここ2、3年の間に中国進出を始めました。
昔、日本メディアが中国進出を促す空気の中で似鳥さんが私に「俺は米国で
成功してから中国に行く」と教えてくれました。3年前に急に相談に来られた時に
「どうして変わったの」とご本人に聞くと「中国に行かないリスクを感じる
ようになった」と言いました。

 

「人件費の高騰」は安い人件費に依存する付加価値の低い加工業経営者の言葉
です。消費者や消費系企業にとって「人件費高騰」は「購買力の成長」であり、
成り立たなかったビジネスが急速に成り立ち始めるサインです。

 

中国経済減速の本質は過剰になった加工業や不動産関連産業への淘汰です。
裏を返せばそれは産業構造の変革の始まりでもあるのです。淘汰があってこそ
新しい技術と産業が生まれるのです。ビジネス感覚のある人がこのことを現場
で感じ取り日本メディアの世論と関係なく中国、特にその先進地域の上海で
ビジネスを展開するのも納得します。

 

中国崩壊論で稼ぐコメンテーターに「あの宋さんも人民元を売った」と言われ
ました。ご本人に「なぜそんな嘘を言うのですか」と聞くと「いいえ、
『売ったはず』と推測しただけです」と言い変えました。思い込みを言って
思い込みの観客に自分を売るビジネスも立派なビジネスですが、ビジネスマンは
それを信じてビジネスをする訳にも行きません。

 

ご存じのように高い利益を得る企業と個人は常に少数です。マスコミの影響を
受ける人が利益を出せないのは当然です。冒頭でふれた知人は英語や中国語が
できて世界中の現場を知っているから本当の情報を得ているのです。
縮んでいる日本に縮んでいる日本メディアとは訳が違うのです。

 

P.S.
「縮んでいる日本」という表現に不満の方はここ数年のGDPと実質個人所得の
データを調べて下さい。まあこんなことを言うから嫌われるのですね。



(終わり)