中国人がTPPを歓迎する理由

 

 

                                                            宋 文洲

まだまだ満足するには程遠いのですが、今年に入って北京の空気がだいぶ 
良くなりました。排気ガスの規制や汚染処理の強化などが急に効果を上げた 
のではなく、景気の悪化が空気を良くしてくれたのです。 
 
しかし、この国慶節の連休では、中国の観光地の混雑ぶりは例年以上でしたし、 
日本への観光客も減るどころか、増える一方です。不況やバブル崩壊だけでは 
説明できない現象は他にもたくさんあります。中国経済はやっと輸出、投資と 
製造に偏る構造からの変革に差し掛かったのです。 
 
私がTPPを歓迎する理由もここにあります。中国の輸出依存体質を直すには、 
付加価値の低い製造業をいったん淘汰させるしか方法がないからです。 
しかし、いくら中央政府がそれを訴えても地方政府が雇用と税収を守るために 
どうしても守ってしまうのです。この結果、中国は世界の工場となり、 
世界のゴミ捨て場になったのです。 
 
世銀のデータによると2011年から2013年の3年間に中国で使われたセメントは 
66億トンで、アメリカが20世紀に使った45トンの1.5倍です!この消費急増は 
鉄鋼、アルミ、石油などにも表れ、中国の環境を著しく破壊し、中国製品の 
コストを上げました。長期的見れば中国自体を壊しているのです。 
 
オバマがTPPを推し進める理由の一つは貿易ルールを中国に作らせたくないと 
いうのですが、日米の一部のタカ派はこれで中国経済を封じ込めるというのです。 
TPPを通すための言い訳か本音かはわかりませんが、中国にしてみればTPPは 
悪いことではありません。現に中国政府が「TPPは重要な貿易協定の一つで 
世界経済に貢献してほしい」と評価したのです。 
 
私は昔から日本がもっと他国とのFTA協定を進めるべきだと主張してきました。 
ASEANとのFTAが遅れ、日中韓FTAに遅れた結果、日本はアジアで最も自由貿易に 
遅れた国になってしまいました。今回の米国主導のTPPに参加すれば一気に 
溜まった宿題が片付くのでとてもよいことです。 
 
しかし、我々経営者によるTPPへの過剰期待は禁物です。収益を自動的に上げて 
くれる貿易協定が存在するほど世界は甘くありません。得する会社もあれば 
損する会社もあるでしょう。活かすかどうかはあくまでも個々の問題です。 
 
政治家や政府に経済の構造改革を期待するのは男に妊娠を期待するようなものです。 
市場開放こそ日本に真の構造改革を促すに違いありません。我々中国人が少し 
豊かになれたのは政府が何かをしてくれたからではありません。 
単純に中国市場を世界に開放してきたからです。 
 
TPPが成功した場合、中国がそれに参加してもしなくてもその基準に則した 
さらなる開放をせざるを得ないのです。現に中国は既にTPP参加国の大半と 
FTAを締結済みです。いかなる経済のグローバル化に対しても中国の民間企業や 
中国民衆はわくわくしているのです。 
 
TPPによって中国を封殺できると考える人もいますが、日本にはそんなことを 
考える余裕がありません。ドルでみれば日本は1995年からGDPは変わっていません。 
安倍政権以降むしろ下がったのです。こんな国は他にありません。 
 
日本の一番の貿易相手、すでに日本の2倍以上になった中国経済を封じ込むような、 
無駄なことを考えるよりもどうやって中国市場で儲かるかを考えるほうが 
前向きです。中国を封鎖できる国は世界にただ一つしか存在しません。 
それは中国です。

 

 

 

(終わり)