知らずにトップに嫌われる言葉

 

 

                                                            宋 文洲

出世したい管理職がトップに喜ばれるように話すのは当然です。しかし、問題は

その話が本当にトップに喜ばれるかどうかです。良いつもりで発した言葉が

トップの気分を害して密かに×印を付けられることも多いのです。

 

トップのタイプによって嫌われる話し方も異なるのですが、だいたいのトップが

共通して嫌う言い方があります。ご紹介しましょう。

 

1.私は良いが、部下が

トップは管理職に意見を求めているのに、その管理職が自分の意見を言わず、

部下の意見を持ち出すのは大変失礼です。そもそも管理職を与えたのはトップ

です。言い換えれば部下を与えたのもトップです。社員に話を聞きたいならば

トップが管理職に聞く必要はありません。直に聞くのが一番良いに決まっています。

 

実際、「私は良いが、部下が」で始まる話の殆どは部下の意見ではなく、

管理職自身の話です。リスクを感じるから勝手に部下の名義を借りるのです。

そのことをトップはよく知っているので「私は良いが、部下が」と言った

瞬間にもう不快に思い始めています。

 

私がトップを務めていた時、自分が任命した管理職からそんな台詞を聞いて

その場で叱りました。「君の話を聞いているのだから、自分の話ができない

ならば帰ってくれ」と警告しました。

 

トップを経験すれば分かりますが、このような言い方はまるで部下達を人質に

して自分を正当化した上、トップにプレッシャーをかけているように感じるので

やめたほうがいいです。言っている本人にそのつもりがなくても、誤解される

危険性が高いのです。誤解されなくても「この人は自分の言葉で語る勇気がない」

と思われるのです。

勇気のない部下を好むトップは滅多に居ません。

 

 

2.世間では

私が経営改革を提案した時代には、保守的なお客様から必ず「日本では」

と言われました。政治でもなく文化論でもなく、ただ具体的な経営改革の話

ですから、自分の視点とロジックで賛成や反対をしてくれればいいのに、頭に

「日本では」を持ってくるのは最初から、国籍の壁を使って私の提案を

拒否しようとする証拠です。

 

私が外国人だからこのような言い方をするのでしょうが、相手が日本人なら

これが「世間では」「世の中は」と変わるのです。

 

長くサラリーマンをやっていると、トップに対して媚を売りながらも、トップ

の気持ちが分からなくなります。自分の意見を「私が」と主語を入れて伝える

とリスクを感じてしまうため、ついつい「世間では」と一般論として

間接的に伝えたかったのでしょうが、トップには「あなたは世間知らず」に

聞こえているのです。

 

トップは仮に少し現場離れしたとしても、もともと現場の重要性を誰よりも

分かる人です。痴呆症にでもかかっていない限り、トップは社員なんかより

ずっと世間を知っているはずです。言いたいことにリスクを感じるならば、

「間違ったらお許しください」と前置きしてもいいですから、とにかく自分を

主語にして語るのが一番感じがいいのです。

 

以降の宋メールで引き続きこのような言葉をリストアップしていきたいと

思います。今思い付いただけでも「社員のモチベーションが」、

「社長も言いました」、「家族に相談してから」などがあります。

殆ど私自身が嫌う言葉ですから、偏見の可能性が高いです。ただ、目的は

トップに好かれるノウハウではなく、経営者の習慣を身に付けてほしいのです。

 

(終わり)