DHC会長吉田氏との裁判に思うこと

 

 

                                                            宋 文洲

2014年の衆議院選挙では、自民党に投票した人は1765万人でしたが、 
選挙に参加しなかった人は4922万人でした。日本政府は有権者の26%によって 
支持されたのです。7割以上の有権者は支持する政治家や政党がないから 
投票すら行かないのが日本の選挙の実態です。 
 
また、今週、二大政党制を目指した民主党が消滅してしまいました。日本は 
自由選挙の体制があっても、共産党以外の野党は長続きしないのです。私が 
来日してから三十年経ちましたが、もうどのくらい政党が誕生し消えて行ったか 
数えきれません。 
 
みんなの党もその一つです。この党が消えたきっかけは党首の政治資金不正疑惑 
でした。選挙の直前に党首の渡辺さんが吉田氏から数億円を借り入れたのに政治 
資金収支報告書に記載しなかったのが問題視されました。この問題は貸し手の 
吉田嘉明氏(DHC会長)が自ら週刊誌に暴露しました。 
 
その後、吉田氏が記者会見を行い提供した資金について利息や担保、返済方法 
などを決めず借用書もないことを明らかにした上、「お金はあげたようなものだ」 
と自ら言いました。記者の「明らかにした理由は」との問いに「私はなぜ多額の 
支援をみんなの党にしてきたのか。それは日本をダメにしている官僚機構を 
改革するため。(みんなの党から分裂し)脱官僚を掲げている結いの党に 
参院の予算委員会のポストを渡そうとしなかった渡辺さんに耐えられなかった。 
お金を返してもらいたいとは全く思っていない。」答えました。 
 
私はツイッターで渡辺さんのやり方を批判していましたが、この会見をみて 
吉田氏のやり方も批判し始めました(主な批判は下記、参考資料をご覧ください)。 
吉田氏とは何のマイナス感情やトラブルもないのですが、単に「政治家だけ 
ではなく、有権者も政治に責任を持つべきだ。」と素直に思ったからです。しかし、 
この批評が吉田氏による「名誉棄損」提訴を招くとは思いもよりませんでした。 
 
「お金はあげた」ならば、政治献金のルールに従ってやるべきでしたし、 
お金を貸したならば、「担保や返済期限が設定されず、借用書もなかった 
としており、贈与と認定されて税務上の問題が指摘される可能性が浮上する」 
(元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士)ということになります。 
 
企業の経営も同じですが、制度があれば実体がよくなるとは限りません。 
立派な制度を持ちながらも実態がボロボロの会社はたくさんあります。 
社員の一人一人の意識改革がなければ制度はお飾りにもなりません。 
自由選挙制度があっても有権者が権力や政治に甘えず、国家や地域の 
主人公として個人利益を乗り超えない限り、選挙制度の良さは現れません。 
 
吉田氏による「名誉棄損」提訴にはびっくりしましたが、勝ち負けと関係なく 
裁判の結果を楽しみにしていました。自分としては個人利益や個人感情ではなく、 
政治の正しい在り方を素直に考えた言論でしたが、合法かどうかは自分が 
判断できないからです。 
 
地裁も高裁も完全勝訴しましたが、吉田氏は不服として最高裁まで私を訴えました。 
少しも面倒だと思いませんでした。むしろお願いしている弁護士に申し訳なく、 
何度も「裁判に負けても全くかまいませんから、裁判所の結論を喜んで 
受け入れます。」と申し上げました。 
 
勝訴が確定した今、弁護士と裁判官に感謝すると同時に、「空気」に配慮せず、 
素直に考えを言い裁判をも素直に受け入れる自分の姿勢は、今後も堅持したい 
と思います。面倒や恐怖で妥協すれば民主主義の良さは実現できません。 
 
 
参考資料:吉田氏に訴えられたツイッターの主な内容 
 
(1)「日本のため」とか「官僚打破」とか、DHC吉田会長は週刊新潮の 
インタビューでずいぶん偉そうな事を言っている。徳洲会同様、単に政治家や 
官僚を動かして規制商売をやり易くしたいだけだろう。 
 
(2)徳洲会やDHCのオーナーは、猪瀬氏や渡辺氏のような生温い政治家よりも 
何倍も計算高い。何倍にもなって帰ってくる計算がないと「貸す」訳がない。 
 
(3)DHC会長かも。分裂で渡辺氏を見切っただろう。自らリークした方が第二の 
徳洲会に思われないし、資金回収にも有利だから。あくまでも私の個人的推測だが。 
 
(4)長年経営してきたが、政治家の友人知人もたくさん居た。ぜったい彼らと 
金銭的やり取りしなかった。それは私の経営者としてのプライドだった。 
大した経営者ではなかったが、政治や官僚に頼む商売を心の底から軽蔑している。 
 
(5)無条件に「規制=悪」みたいなことをいう経営者は怪しい。 
 
(6)維新の会との合流問題から渡辺さんの発言まで、不満と指図が細かい。 
たかだか8億円を出せば公党のオーナーになれると思っただろう。 
化粧水じゃないよ、政党と言うものは。 
 
(7)感心!DHCオーナーの借金取り立ては上手いな。 

 

 



(終わり)